古林先輩(東北大学平成12年入学)の七大戦の考察です。

facebook上に投稿されていたのですが、重要なデータなので、許可を頂いて、こちらに転載させていただきました。

 

 

 

2019年分

気持ちが熱いうちに毎年恒例のふり返り。思うところを整理しながら書いたはずなのに、下書きはA4で3ページ半。。。長文なのでご注意ください。

まずは各大学の得失点数と、取った選手の学年と得点数を整理する。名前の後の漢数字は学年、アラビア数字が得点数。敬称略。

 

北大(2試合2勝13敗):西森(三、2)

東北大(3試合14勝10敗):影山(五、1)、月岡(四、3)、大野(四、2)、山田(四、1)、佐藤(四、1)、廣川(三、2)、本間(三、2)、笠原(二、2)、

東大(2試合9勝6敗):徳永(四、1)、淺井(四、1)東條(四、1)、岡(三、4)、真野(三、2)

名大(5試合27勝21敗):石川(五、13)、安倍(四、2)、菅沼(四、2)、ナランツァルラル(三、3)、石田(三、4)、岩瀬(二、1)、奥城(一、1)、西(一、1)

京大(3試合9勝11敗):櫻井(五、2)、吉村(三、2)、保田(三、4)、大塚(一、1)

阪大(3試合10勝4敗):斎藤(四、2)、文野(四、4)、上野(四、1)、一(二、2)、嵯峨(一、1)

九大(2試合5勝11敗):衣笠(五、2)、末次(四、1)、近藤(四、1)、吉田(一、1)

 

個人に着目すると、昨年に続いて名大の石川選手が5試合で13勝1敗4分という圧倒的な成績をおさめた。残り時間が短くなっても焦っている様には見えず、淡々と攻めて一本を取り、勝っても奢る様子がない姿勢はまさに心技体が揃った七大柔道選手の鑑と言える。

同じく昨年活躍した東大の岡選手は2試合に出場して確実に点を挙げて引き分け、取り役の役目を果たした。

一昨年5勝を挙げながら、昨年は当たり悪く無得点に終わった阪大の文野選手は、主将として出場した今大会で4勝をあげ、優勝に大きく貢献した。

個人的に注目したのは東北大の笠原選手。二年生ながら引き込むスタイルで2人を抜いて3人目を分けたのは実に見事。来年以降も大いに期待できそうな選手だった。

名大の石田選手の身体の強さにも驚かされた。

 

得点した選手は35人、昨年の37人とほぼ同数となった。

その半分以上となる20人の選手が2勝以上をあげているが、これは前回の15人に比べて多かった。

今大会は石川選手を除いて、5勝以上あげた選手はおらず(昨年は衣笠選手や伊藤選手らが5人以上)、得点が分散したためである。

総得点=総失点は76、これも昨年の76勝と完全に一致した。3年連続して1試合あたりの両チーム合計勝利数は8勝程度となったので、4敗すると勝つことが非常に難しいということになった。

これを一つの目安とするなら、5勝以上を狙って取り役を5人以上揃えるか、4敗以内を狙って分け役(取り役を含む)を11人以上揃えるかが、勝利への必要条件となる。

ただし、前者は毎試合5勝することが求められるが、エース同士の対戦も珍しくない勝ち抜き戦でこの条件を満たすのは困難と言える。

また、この条件は1回戦や敗者復活戦を含む結果なので、準決勝進出の条件であり、決勝や準決勝だけに着目すれば、おそらくこの必要条件は変わると思われる。

 

 

1試合の平均得点は北大1、東北大4.7、東大4.5、名大5.4、京大3.0、阪大3.3、九大2.5、となった。

 

最も得点を挙げたのは名大、その半分は石川選手によるものだったが、彼を除いても他の7人で2勝以上しており、単なるワンマンチームではないことがわかる。

次いで東北大、レギュラーの半分以上の8人が点をあげる得点範囲の広さを見せつけた。

 

東北大とほぼ同等の東大、こちらは半分近くが岡選手による得点。

 

京大と阪大はそれぞれ3勝台と3校に比べて小さいが、京大は保田選手、阪大は文野選手が毎試合で得点をあげ、安定した得点力を有していた。

 

北大は取り役が相手の取り役と当たる不運もあり、今大会で得点したのは西森選手のみ。

 

九大も得点したのはほぼ全て4年生以上、かつ複数の試合で勝ち星をあげたのは過年度の衣笠選手のみ。両校とも今後に大きな課題が残る大会となった。

 

 

 

平均失点は北大6.5、東北大3.3、東大3、名大4.2、京大3.7、阪大1.3、九大5.5、となった。

 

同時優勝した阪大が突出して少なく(過去3年21チームで最小値)、文野選手が毎試合得点したことを考えれば、「1人が取って14人が引き分けて勝つ」という七大戦の理想(?)に最も近いチームだったことがわかる。

 

その阪大と同時優勝した東北大は、初戦の名大で石川選手に2人抜かれたことも響いて3.7と阪大の3倍近く失点している。幅広い得点力でカバーしたものの、これは有力な4年生が多かったことによる僥倖。来年への課題と言える。

 

東大は準決勝で東北大に敗れたものの、失点数は東北大よりも少なく、2年生以上で15人を揃えられる強みを発揮した。準決勝では東北大と最後まで競った試合だったこともあり、優勝を狙える位置にいたのは間違いない。惜しむべくは東北大戦で取った2人の選手が取り返されたこと。そこでどちらかでも引き分けていれば、逆の結果が十分にあり得た。「勝って分ける」ことの重要さを再認識した。

 

名大は圧倒的な得点力を有しながら失点も多く、5試合中4試合で相手に先制を許している。3年生以上が半数に満たないという不安要素が表に出てしまった形と言えそう。

 

京大は、失点を最小に抑えた堅実な試合で優勝した昨年に比べると、4年生が1人ということもあってか東大の岡選手や名大の石川選手を止められずに失点がかさんだ。3年生は5人いるので、来年に期待。

 

北大と九大は昨年に続いて他の五大学に比べて失点が多い。決してフィジカルが圧倒的に弱いわけではなさそうなので、得点が少ないことも合わせて、何かしらのチーム改革が必要なのかもしれない。両大学とも15人中7人は2年生以下という事情はあるが、それは京大や名大も同様であり、何かしらの理由があると思われる。

 

 

今回は得失点だけでなく、引き分けた選手にも焦点を当ててみたい。

上述のように、石川選手を筆頭に複数点あげた選手が多くいた。こういった選手を引き分けることこそが七大戦の醍醐味であり、優勝するためには必須と言える。

今大会での代表格では阪大の横塚選手。北大の北口選手、名大の石川選手、東北大の影山選手と、昨年得点をあげた選手や今大会でも活躍した選手を引き分け、阪大の優勝に大きく貢献した。

しかし、横塚選手自身も得点候補としてあがっていたので、できれば大会前に得点が見込める選手として名前があがらなかった選手の名前をあげたい。

 

まず阪大の木下選手、名大戦では1人抜いてきた石田選手を、東北大戦では昨年3人抜きしている菅原選手を相手に引き分けた。特に東北大戦では、同点で四将の自身が敗れればチーム敗退の可能性が非常に高くなる状況にあって、2度も抑え込まれそうになりながらも驚異的な粘りで守り切ったのは見事だった。

次に東北大の笠原選手。名大戦での得点もさることながら、東大戦では1人抜いてきた岡選手を、阪大戦では4年の上野選手を、正対からの守りで引き分けたのは2年生とは思えない脚のききよう。東北大の優勝に大きく貢献したのは間違いない。

阪大の斎藤選手は東北大の布施選手や名大のナランツァルラル選手を、名大の渡辺選手は阪大の伊藤選手を、東大の枝野選手は東北大の布施選手を、九大の川本選手は名大のナランツァルラル選手を、それぞれ1人で引き分けている。こういった得点に等しい引き分けをどうにか評価できないか思案中。

 

 

総括すると、3年連続して最小失点の大学が優勝しており、守りの重要さが再度示された。

同時優勝の東北大は、失点数こそ阪大や東大に比べて多いが、1人に複数抜かれたのは石川選手のみであり、かつ4度も抜いてきた相手を抜き返していることから、ただの失点ではなく次の選手につながる試合ができていると言えそう。

数字の上で言えば、MVPは名大の石川選手になるだろうし、優勝の立役者は阪大の文野選手と東北大の月岡選手になるのだろう。

しかし、今大会無得点の阪大の横塚選手のように、引き分けで貢献した選手を客観的に評価することが、各大学で守りを鍛える上で重要になるのではないだろうか。

長くてすいません。。。

 

 

 

2018年分

昨年に引き続き、気持ちが切れないうちに今年の七大戦を整理しよう。去年の戦力分析を見直してから観たので、今年の七大戦は去年以上に楽しめた。

まず取った選手を学年順に羅列する。()内は漢数字が学年、アラビア数字が取った数。


北大(2試合、9):

北口(四、1)、岡本(四、3)、小笠原(四、1)、川上(四、1)、中島(三、1)、三木(三、1)、中村(二、1)

 

東北大(3試合、9):

影山(四、2)、竹中(四、1)、月岡(三、1)、布施(三、2)、菅原(二、3)

 

東大(2試合、5):

山添(二、1)、岡(二、3)、真野(二、1)

 

名大(5試合、20):

石川(四、11)、浪崎(四、2)、松井(四、1)、安部(三、1)、菅沼(三、1)、Narantsatsral(三、2)、黒見(一、1)、小林(一、1)

 

京大(3試合、12):

細江(四、4)、松尾(四、3)、森(四、1)、吉村(二、3)、保田(二、1)

 

阪大(2試合、10):

伊藤(四、5)、桜井(四、1)、渡邊(四、1)、横塚(三、3)

 

九大(3試合、11):

衣笠(四、5)、仲原(四、3)、吉永(四、1)、末次(三、1)、正木(二、1)

 

 

ここで目につくのは名大石川選手の11勝という突出した数字。彼は5試合すべてで2人または3人を抜き、最後は引き分けている。通算は11勝5分、しかも九大戦では今大会でも活躍している衣笠選手を、阪大戦では昨年累計5人を抜いた文野選手を引き分け、抜いた後に相手の取り役を止めるという七大戦の理想を体現した選手だった。チームは優勝できなかったものの、個人的にMVPは彼だと思っている。

 

 石川選手以外では、阪大伊藤選手の5勝、九大衣笠選手の5勝、京大細江選手の4勝が複数の試合にわたって複数人数を抜いた結果であり、間違いなく今大会指折りの選手たちだった。東北大菅原選手と九大仲原選手はそれぞれ劣勢の中での3人抜きでチームを逆転に導き、爆発力を見せつけた。横塚選手は昨年の2点に続いて今年は3点、毎年点が取れるのは実力の証と言える。京大松尾選手と吉村選手は3試合に1点ずつ重ねての累計3勝、前述の3人抜きよりも目立たないが、チームとしてはかなり頼もしかったはず。北大の岡本選手と東大の岡選手は、初日敗退してしまったチームにあって、2人抜きする等その存在感を示していた。他にも、東北大影山選手と布施選手、名大の浪崎選手とNarantsatsral選手は2人を抜いており、他大学からは侮れない存在だっただろう。

 

 なお、取った選手の学年をみると、ここまでに名前が挙がった有力選手の多くは四年生である。各大学とも新しい取り役の育成が求められる中、医学部生であり来年も出場権を有する名大石川選手と阪大伊藤選手の存在は他大学からは脅威と言える。実際に出るかはわからないけど。

 

 去年と比べると、1勝以上した選手は去年37人、今年37人と同数だった。一方、大会を通じた累計勝利数は去年の65勝に対して今年は76勝となり、主管大学の初戦敗退に伴う試合数増があったことを考慮すれば1試合両チーム合わせて平均8.0勝で同数となった。これは、4敗すると勝つことが非常に厳しくなることを示しており、昨年と今年だけでサンプル数は少ないが、勝つための一つの目安とできるかもしれない。

 

 チームごとに見てみると、1試合あたりの平均得点数は北大4.5、東北大3、東大2.5、名大4、京大4、阪大5、九大3.67と、阪大が最も多いが、ほとんどの大学は4点前後で大きな差はない。東大だけが他の大学に比べて少なかった。名大と阪大は総得点の半数を1人が稼いでいるが、京大は最も得点をあげた細江選手が唯一得点できなかった名大戦にあっても松尾選手と吉村選手が1点ずつあげる等、複数の選手がコンスタントに得点をあげている。この複数人数による得点力が京大優勝の一因と言える。

 

 1試合あたりの平均失点数は北大7、東北大3.33、東大3.5、名大3、京大2.33、阪大3.5、九大5.33と、北大と九大が突出して多く、優勝した京大が最も少ない。最も平均失点が少ない大学が優勝したことや、最も平均得点が多い大学が勝ち上がるとは限らないのは昨年と同じ傾向であり、いかに失点を防ぐかが重要であるかがわかる。決勝での京大は、阪大との激闘直後で疲労が残るとはいえ、2試合で8点をあげた東北大をわずか1点に抑えている。また、抜いた選手は皆引き分けて終わっており、抜き返された選手はいなかった。総失点7も、3点をあげた名大石川選手を含めて、3試合45人を相手にして4人にしか失点していない。これは今大会では極めて少なく、京大の総合力の高さを表している。

 

 京大優勝の立役者を一人選ぶのは難しいが、細江選手が一回戦で二人を抜いて大将と引き分けて逆転勝利したことや、松尾選手と吉村選手が全試合で抜いた後に引き分けたことが印象に残っている。この3名がいなければ今年の京大といえども優勝は厳しかったと思う。彼らと、このような総合力が高いチームを作り上げた幹部および指導陣の皆様に敬意を評します。京大のみなさん、おめでとうございます

 

 

 

2017年分

今年の七大戦、男子は東北大学、女子は大阪大学の優勝で幕を閉じた。毎年七大戦初日に「どこの誰が強いんだっけ」と記憶を必死に辿り、初日の結果を見てから「そういえば彼だったな」とおぼろげに思い出すことが多い。1日経っても興奮冷めやらぬ今のうちに、今年の七大戦を整理しておこうと思う。東北大は女子が出てないので男子のみ。完全に個人的なメモです。

 

まず取った選手を学年順に羅列する。( )内は取った数。左から学年順。

 

北大(15):

手良向(6)、小山(2)、徳井(2)、小笠原(2)、小杉(2)、松本(1)


東北大(8):

小山(2)、中村(1)、角田(1)、布施(1)、大野(1)、山田(1)、菅原(1)

 

東大(4):

山中(1)、中村(1)、福島(1)、岡(1)

 

名大(10):

金子(2)、石川(4)、松井(2)、森(1)、森下(1)

 

京大(8):

関(1)、海野(1)、梅本(1)、安田(1)、櫻井(2)、細江(1)、松尾(1)

 

阪大(13):

大坪(2)、渡邉(2)、和田(1)、横塚(2)、文野(5)、上野(1)

 

九大(7):

三浪(1)、衣笠(6)

 

抜いた人数では北大の手良向君と九大の衣笠君が最も多くて6人、次いで阪大の文野君が5人、名大の石川君が4人。15人の抜き勝負ではオーダー次第で抜ける事もあるが、この選手らは間違いなく実力者と言って良さそう。他にも2人抜いた10人の選手も当然侮れない。元高校王者で昨年は東北大から4人を抜いた阪大の伊藤選手は今回1点も取ることができていない。個人的には名大の石川君が非常にいい柔道をしているように感じた。

 

東北大や京大の総得点は北大、阪大に比べて少ないが、勝ち星をあげた人数はむしろ多く、レギュラーの半数近くが得点をあげる等、特定のエースに頼らない試合をしていたことがわかる。来年も出場する選手が多いので、来年の大会前に見返そう。

 

1試合あたりの平均得点は北大が3.75点、東北大が2.67点、東大が2点、名大が5点、京大が4点、阪大が4.33点、九大が3.5点となり、主管校の名大が最も高い得点率となった。一方で優勝した東北大学は6番目でむしろ少ない。

 

一方、各大学の1試合あたりの平均失点は、北大が3.25点、東北大が1.33点、東大が4点、名大が4.5点、京大が3.5点、阪大が3.67点、九大が6.5点となり、東北大の失点が際立って少ないことがわかる。平均得点では最も多い名大は2番目に、最多得点をあげた衣笠選手を擁する九大は最も平均失点が多かった。東北大は典型的な総合力のチームであり、全員で堅く守り、得点は相手の隙に当たった選手が突く戦術で優勝したことを改めて実感した。

 

今回の東北大の優勝に殊勲賞をつけるのは難しい。得点した選手の多さもさることながら、失点の少なさはそれだけ守りの面で活躍した選手が多いことを示している。体格に劣り攻めることはできなくても、積極的に守ることで試合全体の流れを左右する選手になり得る、年を重ねるごとに七大戦の面白さがわかってくると感じる今日この頃です。